素晴らしいアート・オブジェに向かい合った時、
われわれは素直に心を奪われます。
しかし美術館やギャラリーで鑑賞するのではなく、
数多くのジャンルからお気に入りのアート・オブジェを
選び暮らしの中に取り入れることは
自己の個性やライフスタイルをそのまま表現する
素晴らしい暮らし方と云えましょう。
私は、アート・オブジェを暮らしの中で活かすことによって
生活を一層豊かにすることが
とても魅力的な事だと考えています。
PROFILE
1971年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。
1992年、総合建設会社設計部を経て、(株)アーキテクツ・アンド・アソシエイツ取締役設計部長。
1998年、㈱ミサワアソシエイツ一級建築士事務所 代表取締役。
2000年、(株)M.A.I 代表取締役。
主に都心の共同住宅の設計を手掛ける。
建築・ランドスケープデザインからインテリアデザイン・スタイリングまで一貫したデザインを目指す。
2009年 ギャラリーRYOを開設。
UDM研究会実行委員長。HEAD研究会ライフスタイルTF委員長。
アートやオブジェを特別なものだと考えている人は多いのではないでしょうか。作品主義ということではなく、それらを生活空間や暮らしの中に取り入れていくことは大切だと思っています。アートとオブジェを同等に扱っていいかという議論はあるかもしれませんが、素晴らしい作品に向かい合った時、われわれは作品そのものに純粋に惹かれるものです。アート・オブジェが住空間にあることが、より人々の生活を豊かにしてくれることをテーマに話を進めたいと思います。
住空間を構成する建物や室内空間と同様に、家具やファブリック、そしてアート・オブジェなども住空間においてそれぞれの役割は重要です。しかし、建物や室内空間は一度完成してしまうとその変更に手間がかかりますが、家具やファブリック、アート・オブジェなどは入れ替えが比較的容易でありその効果も大きなことが特徴です。人々の暮らしは年齢や社会とのかかわりにつれ次第に変化していくものです。一方で細やかな日々の変化にも合わせながら、住空間を変化させていくことは暮らしを楽しむ為にとても効果的なことだと思います。
日本の住宅は古来より開放的で、ハレの空間の象徴として「床の間」があることが特徴です。その「床の間」に掛け軸や花器を飾る、という住宅に育った日本人は、何も置かない空間でのストイックな非日常性を受け継いできました。しかし、今ではそれとは逆に耐震性や省エネルギーによる壁に囲まれた住空間に変わりつつあります。経済的背景も変化し、モノを所有することの楽しく豊かな日常を住空間でどのように演出するかが重要になっているのかもしれません。
ファッションを楽しむように、心を惹かれるアート・オブジェをセレクトすることは、その人の個性やライフスタイルを表現することだと思います。インテリアの構成要素により、喜怒哀楽・夢・想い出・価値観など、これほど雄弁に住まう方の気持ちを語ってくれるものはないと思います。生け花を取りかえて四季の変化を楽しむように、手軽に雰囲気を変えていくことが重要です。アート・オブジェは、まさにそのときの気分を素直に表現できる存在であると考えています。好きな作品を選ぶことは自分そのものの個性とかライフスタイルを表現することです。自分の個性の変化や心情を表わすことで、心の鏡に一歩近づけるようにお気に入りの作品を選ぶ意味は大きいと思います。
かっては専門家のアドバイスのもとに作品をセレクトする方が多かったのですが、ご自身の意思で作品を選ぶ方も最近は増えています。その方の生き方、感動や好みに身を置くことは、日常の生活にとって大きなプラスになります。自分の知らない分野のアートを発見すること、アーティストやその思想に想いを馳せることは大きな喜びです。オブジェにおいても、創られた歴史的背景や豊かな表現方法・材質の扱いを知ることに大きな魅力を感じます。アート・オブジェそのものを活かすこと、それによってさらに空間が活きるということ、この両面を活かす事が大切だと思っています。
住空間では、建築デザインとアート・オブジェを含むFFE*との関係性は重要で、建築デザインと生活の一体性が大切です。さらにFFE自身もそれぞれを切り離して考えるのではなく、住宅に住むための一連のコンセプトで繋がった、それぞれに大切な要素です。つまりこれらのデザイン的に美しく繋がったFFEのなかでアート・オブジェは住まう方の最も近いところで個性的な輝きを持つのではないでしょうか。
建築の計画では建築家が純粋に建物のデザインを追求し、インテリアは専門のデザイナーにお願いすることもあります。しかし、建築の主役はあくまでも人間であり、建築デザインと人間(つまり生活)を切り離さないことが重要です。少なくとも住宅においては、建築・インテリアデザインやFFEとの何らかの一体性が大切だと思っています。
これまで共同住宅を中心にしたデザインを続けてきましたが、一貫したテーマは共通のデザインコンセプトで建物・インテリアデザインとFFEを結びつけることでした。そのため建築士事務所を開いた直後に、必要に駆られインテリアデザイン事務所MAIを開設しました。しかし、素晴らしいデザインの家具は比較的容易に探すことができますが、希望するアートを見つけることの困難さや、モダンデザインに偏るオブジェが多く、実際に建物に寄り添えるようなFFEやスタイリングを異和感なく揃えることが大変難しいこともわかり、ギャラリーRYOを開くことにしました。最近ではシニアマンションやホテルに対して、時の変化や季節感を演出するために、ストーリー性のあるリース業務も開始しています。